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それは母親と赤ちゃんです
1才になれば歩き出すなど、子どもの成長はしかるべき年齢になると自動的にその発達段階に到達し、その能力は生まれつき備わっていると思われていました。
言い換えれば、赤ちゃんがもって生まれる能力は遺伝的に決まっていると思われていたのです。
この理論でいくと、子どもが1歳で歩き始めるのは、その能力が生まれつき備わっているからだということになります。
生まれて12か月経ったら目覚まし時計が鳴って、歩く能力のスイッチが入るということでしょうか。
能力のスイッチを入れる目覚まし時計は
あるのでしょうか
学校に通う子どもたちのなかで、読解力がその学年レベルに達しない子どもが全体の30%にのぼることを、どう説明したらよいのでしょう。
この理論は「そのときになれば」という前提に立っています。
6歳になったら目覚まし時計が鳴って、子どもたちは「読めるようになる」というものです。
人間能力開発研究所ではすでに1962年には
2歳、3歳、4歳といった幼い脳障害児に
読むことを教えていました
一般に言われてきたように、6歳という「その時」が来たら読めるようになるならば、学校に通う子どもたちのなかで、18歳になるまでに年齢レベルの読みの能力を身につけられない生徒が30%にもなることを、どう説明したらいいのでしょう。
6歳で目覚まし時計が鳴らなかったのでしょうか。
18歳になるまでに鳴ることがなかったのでしょうか。
私たちが教えてきた脳障害児たちの「目覚まし時計」は、なぜ早い時期に鳴ったのでしょうか。
確かに子どもは普通生後12か月で歩き始めます。
でもそこに年齢との因果関係があるのでしょうか。
それだけの時間が経ったから歩けるようになったということでしょうか。
私たちは、時間が経過したからだとは思っていません。
生まれたときから優れた環境のなかで脳を発達させる機会を与えられた子どもたちを、私たちはずっと見てきました。
そして自らに問いかけました。
「なぜこの子たちは、同年齢の他の子どもよりも早い時期に歩いたり、話したり、手が上手に使えるようになるのだろうか。」
他の子どもよりも早く学べるようになったのはなぜでしょうか。
生まれたときから、危険を察知して
反射的に反応する機会を与えます
ケイレブは自力でお母さんの親指を握っています
刺激と機会は、脳の成長の基本です。
子どもの脳の発達とそれに伴う成長は、子どもが環境からどれだけの刺激を脳に受けているかによると気づいたのは、私たちの発見の中で最もわくわくしたことでした。
目覚まし時計でスイッチが入るのでもなければ、優れた遺伝子に依存するものでもないのです。
私たちは脳障害児のための「目覚まし時計」を鳴らすことができるよう、あらゆる試行錯誤の中からたくさんの方法を見つけたのです。
あらかじめ時間が設定された「目覚まし時計」は存在しません。
私たちが発見したのは、単純で的確な真実でした。
脳は使うことで発達します。
あらかじめ時間を設定された目覚まし時計にしたがうものではないのです。
脳の成長は速めることもできるのです。
生まれてから最初の6年間は貴重です。
この時期、脳は驚くべき速さで成長するからです。
中でも生まれてからの1年は、脳が最も劇的に成長するのです。
新生児の視覚経路の発達は、人生最初の一年の脳の劇的な成長をはっきりと証明しています。
適切な刺激と機会
適切な視覚刺激と、床で自由に動き回る機会
マリアはその両方を楽しんでいます
生まれたとき新生児には実際に役に立つ視覚機能はまだありません。
明暗が分かるだけです。
「対光反射」の機能はあります。
つまり、目に光を当てると、視覚経路に光が入りすぎないように瞳孔が収縮します。
明かりを消すと、視覚経路が認識するのに十分な光が入るように、瞳孔が再び拡大します。
「見る」能力を早いうちに獲得することはとても重要です。
ヒトの一生で脳が最大の速度で成長している時期に、赤ちゃんは視覚刺激のない環境に閉じ込められているのです。
膨大な情報を獲得する能力があるのに、視覚の経路の発達が十分でないために、情報を取り込むことができないのです。
脳は使えば使うほど成長します。
そして赤ちゃんのできることが増えていくのです。
生まれたときから適切な刺激を与えれば、赤ちゃんは刺激を与えない場合よりも数週間あるいは数か月も早く見る能力を獲得します。
脳が急速に成長する時期に、自分の周りにあるあらゆるものを見ることができるようになるのです。
まだ生後10週のマリアはもう読もうとしています
読みのプログラムが大好きです
視覚機能が確立すると、他の機能の経路も育っていきます。
見えるようになった子には、私たちが何を話しかけているのかが解りやすくなってきます。
見えるようになると、赤ちゃんは動きたいと思うようになります。
その結果動こうとがんばるので、実際により多く動くようになります。
そうして動くことが、触覚機能を刺激し、視覚機能をさらに発達させていきます。
運動量が増えると、胸郭が成長し、その結果呼吸の機能が発達します。
呼吸がよくなれば、声を発しやすくなり、自分が必要としていることをよりしっかりと伝えられるようになります。
こうしていろいろなことが相互に高め合い、さらに次の段階への刺激の口火となり、その刺激が新しい能力に引火するのです。
脳は使えば使うほど成長していきます。
そして赤ちゃんはより高い能力を身につけていきます。
脳を使うというのは、こういうことなのです。
脳への刺激は偶然を待つのではなく、意図的におこなうべきです。
脳障害児には偶然起こる刺激を待っている余裕はありません。
実は健常な赤ちゃんも同じなのです。
子どもの能力は刺激と機会の結果であり、あらかじめ時を定めた目覚まし時計に従うものではないし、すでに決められている遺伝子によるものでもありません。
従来言われてきた理論よりも、実際には脳は刺激を与えることではるかにしっかりと成長していくのです。
従来の理論を否定する事実は、子育てをするお母さん、お父さんの背中を押してくれるでしょう。