妊娠期間は39週と2日でした。
陣痛には何の問題もありませんでしたが、途中で収縮のたびに赤ちゃんの心拍数が落ちるのに助産婦が気付きました。
臍帯が首に巻き付いている兆候でした。
破水から10分後に生まれてきたフロイドは、大きな泣き声をあげ元気でした。
生後12時間たったころ、助産婦は21トリソミーの可能性を思わせる小さなふたつの兆候に気づきました。
その後それが正しかったことがわかりました。
赤ちゃんのときからすでに、なんでも見たい、触ってみたいと、好奇心旺盛な子どもでした。
周囲の人々を驚かせるほどいろいろなことに気が付くのです。
同年齢の赤ちゃんの発達レベルをはるかに上回っているようでした。
生後4か月で予防接種を受けたあと、成長と発達の速度が落ちたのはあきらかでした。
身長、体重、頭囲の成長が遅くなりました。
寝返りを打たなくなり、床の上での動きが非常に遅くなりました。
運動面の成長としての身体の細かい動きもなかなか発達しませんでした。
それでも意志の強さは変わらず、好奇心も旺盛で、社会性の成長は平均以上のレベルにありました。
注意力、集中力、社交性などは高いレベルを保っていましたが、その他の機能は生後4か月以降進歩がみられませんでした。
社交的で人懐っこい性格は強みでしたが、運動面の発達では、腹ばいするのに補助が必要だったり、横転がりもほとんどしないなど、かなりの心配がありました。
ある療法を受けましたが、特に変化は見られませんでした。 ご両親は解決策を探し始めました。
人間能力開発研究所を見つけ、家庭でプログラムを開始したとき、フロイドは6か月になっていました。
毎日おこなう新しいプログラムに、フロイドはとても興味をもちました。
なかでも読みのプログラムは大好きでした。
ご両親はメルボルンで開催された「あなたの脳障害児になにをしたらよいか」コースを受講しました。
コース後もしっかりとプログラムを続けました。
3か月後、フロイドは家族に連れられて初めて人間能力開発研究所本部を訪れました。
この時1歳2か月になっていたフロイドは、すでに腹ばい、高ばい、バランス運動のプログラムに加え、感覚刺激と酸素量強化のプログラムもしっかりとおこなっていました。
食生活からは乳製品とグルテンが排除され、さまざまなオーガニックの食品が加わっていました。
知性面では読みと百科事典的知識のプログラムを始めていました。
家族皆で頑張った結果、フロイドは読みのヴィクトリーを獲得し、研究所のスタッフによる機能評価で、脳の発達年齢が健常な同年齢児を上回る速度で発達していることがわかりました。
毎日のプログラムは、頻度、強度、継続度を増し、学んだことを実際に使うことのできる適切な機会もしっかりと与えられるなかで、フロイドの脳の機能は発達し続けました。
これまでの3年4か月にわたるプログラムのなかで、フロイドは何千もの単語を読みました。
独りで読めるようになって、12歳から14歳レベルの本をむさぼるように読んでいます。
百科事典的知識の書棚には5000枚を超えるビッツカードが収められています。
絵を見てわかるだけでなく、それぞれについてたくさんの知識をもっています。
英語に加えて、中国語、日本語、ドイツ語、スウェーデン語、オランダ語を学んでいます。
算数は4~5年生レベルに取り組んでいます。
全体的に見てフロイドの理解力は年齢レベル、あるいはそれ以上です。
60分で5.3キロ歩き、そろそろ走れるようになってきて、一度に数メートル走ります。
現在最大のチャレンジは言葉で考えを伝えることです。
500語は使えるようになり、短い文章も話すようになりました。
責任感がとても強く、昨年の12月に生まれた妹の面倒もよく見るなど、家の中でも様々な場面でお母さんを助けています。
「フロイドは誰よりも妹のことが好きでいつもそばにいます。」とお母さんは言います。
妹ができてから日本語で「オニイサン」と呼ばれるようになり、この肩書をとても誇らしく思っています。
「オニイサン」は、家庭ではお父さんの次の位置にいるという意味合いをもちます。
お兄さんとしての役割をしっかり果たせるように、いろいろと学んでいます。
とくに力を入れているのは、小さな妹にビッツを教えることですが、腹ばいや高ばいもよく一緒にします。
社会面の成長について
年齢を上回る賢い子です。
礼儀もわきまえていて、子どもにも関わらず誰とでもうまくやっていけます。
注意力は年齢レベルを遙かに超えていますし、妹ができてからは我慢することも覚えました。
責任について
家の中での責任を喜んで果たします。
先日フロイドはグロー財団から助成金を受けるために、家族と一緒にメルボルンに行きました。
人間能力開発研究所の集中プログラムをおこなう子どもたちのために、マラソン大会を企画したり、手作りのお菓子を販売するなど、いろいろな活動をおこなって基金を集めているグロー財団の子どもたちやその親御さんたちに会うことができる特別の機会でした。
式典の集まった人々にとって、何より価値のある週末でした。
この集まりのスターのようだったフロイドにとっては、本当に特別な経験でした。
年長の子どもたちが近づいてきて、フロイドの能力、特に数学がよくできることを称賛しました。
お母さんはこの集まりでフロイドについて話し、フロイドを助けるために尽力してくれた素晴らしいお母さん、お父さんや子どもたちに感謝の気持ちを伝えました。
オーストラリアには、長年にわたって、脳に障害のある子どもをもつ家族がフィラデルフィアまで来るための手助けをしている人々がいます。
これこそ、傷ついたものを置き去りにしないというオーストラリア魂です。
グロー財団の支援があるからこそ、プログラムを続けられるのです。
この先もたくさんの困難がフロイドを待ち受けていること、越えなければならない山々があることは疑いのないところですが、フロイドと家族は強い決意で結ばれているチームです。
お互いに愛し合い、さらにグロー財団のメンバーからの愛と支援に助けられて、これからの困難も克服できることでしょう。
グロー財団の人々は、一人の子どもに、健常になるための戦いのチャンスを与えることによって、すべての子どもが計り知れない可能性を秘めていることを広く知らせる道を開拓しているのです。