解決策は移植でも補聴器でもない
妊娠中、お母さんの体調は万全ではありませんでした。
赤ちゃんの胎位が顔位であることがわかり、出産も容易ではないことが予想されました。
吸引分娩での出産でした。
医師たちは赤ちゃんに問題がある可能性を想定していたので、早いうちに検査をしました。
赤ちゃんのこうしろう君
検査の結果、赤ちゃんが深刻な問題を抱えていることが分かりました。
診断は脳の先天性形成不全、全前脳胞症(頭葉が分化していない)および重度の難聴というものでした。
聴覚誘発電位検査を何回もしましたが、赤ちゃんは反応しませんでした。
CT検査では、聴覚経路に異常は見られませんでした。
問題は脳にありました。
蝸牛骨の移植が必要かもしれないと思われていたため、最終的な判断するのにCT検査をしました。
CT検査をしたのは、正しい判断でした。
蝸牛骨の移植の場合、聴覚経路の一部を取り除くので、この手術をすると、もう正常な状態には戻せなくなるのです。
すぐに補聴器を使うことになり、就学年齢になったら聾学校に入ることになりました。
脳障害のために
耳が聞こえませんでした
全体的な発達も非常にゆっくりでした。
2歳のときには、聴覚の問題に加えて視覚の問題もあることがわかりました。
近くのものしか見えず、自分で動くことができませんでした。
動けませんでした
いろいろな方法による治療を受けましたが、変化はありませんでした。
ご両親は諦めることなく、わが子のためにより良い答えを探し続けました。
こうしろう君が2歳になろうとしていたころに、「あなたの脳障害児になにをしたらよいか」コースの存在を知り、すぐに受講の申込みをしたのです。
コース修了後、ご両親はコースで得た知識をすべて動員して、すぐに家庭でプログラムを始めました。
こうしろう君のお姉さんも、積極的に、熱心に手伝いました。
健康的な食生活を目指し、食材選びにも取り組みました。
床で自由に動き回れるような環境をつくりました。
補聴器を使わないことを目指して、聴覚刺激のプログラムにちからを入れました。
プログラムを始めてから12か月経つと、こうしろう君は初めて聞こえるようになり、遠くが見えるようになり、動けるようになり、さらに健康な子どもになりました。
プログラムを始めてすぐに
ご両親はこうしろう君の進歩に気づきました
1年後、こうしろう君は初めて人間能力開発研究所スタッフによる機能評価を受けました。
それまでのご家族の努力によって、こうしろう君の健康状態は大幅に改善し、便秘がなくなり、病院に行く回数も減りました。
動けなかった子どもが動けるようになったのです。
家の中では腹ばいで動き回り、どこでも行きたいところに移動できるようになりました。
以前よりずっとよく見えるようになったので、冒険心にも火が付きました。
近くのものだけでなく、遠くのものを見る機能も安定してきました。
何よりも素晴らしいのは、聴覚刺激をしっかりとおこなったおかげで、家の中の日常的な音を、補聴器なしでも聞き取れるようになったことでした。
生まれて初めて動きました
研究所のスタッフは、こうしろう君に新しいプログラムをつくりました。
聴覚刺激、触覚刺激を強化することに加えて、酸素量強化プログラム、運動プログラム、知性面のプログラムをおこなうことになりました。
もちろん栄養プログラムもさらに改善されました。
初めて研究所を訪問してから1年間で、こうしろう君は両手両膝を使った高ばいで、家じゅうを動き回るようになりました。
そろそろ歩くことも訓練し始めました。
1年間全く病気をしていません。
本を読むために高ばいでここまで来ました
自由に高ばいができるようになったので、研究所スタッフとご両親が次に目指すのは、こうしろう君が歩くことです。
頭上梯子を使って練習しています。
こうしろう君はこの目標を達成できるでしょう。
自力で歩くようになる道のりの半ばです
補聴器はもう使いません。
周囲で交わされている会話が聞こえ、理解できるようになったので、補聴器は必要なくなりました。
話もできるようになってきて、会話に参加しています。
ご両親もお姉さんも、こうしろう君を誇りに思っています。
皆で一緒に、つらい診断をはねのけたのです。
運命として諦めていたかもしれないことでした。
蝸牛骨の移植を選んで、聴覚経路に自然な刺激を与えることができなくなっていたかもしれません。
しかし一家は、「脳に刺激を与える機会をできる限り増やす」という道を選びました。
もちろん、かなりの努力を要することでした。
しかし小さな家族の一員が、日々困難を克服してゆくのを見るのは、家族にとって大きな喜びなのです。
こうしろう君は、まだ完全にはなっていません。
歩いたり、普通に話したりというゴールには達していませんが、2年前とは全く違った少年になりました。
お母さん、お父さん、お姉さんと共に、これからの2年間にさらに大きな目標を達成してくれることでしょう。
研究所のスタッフ一同、楽しみにしています。
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